アヒル農法を実践して感じたこと

アヒルは生き物であり、田んぼという自然環境で生き物を飼育するということは様々な不確定な要素が含まれています。自然環境というのは、基本的に人間が思ったようにはいきません。一年目は購入したヒナは20羽でしたが、生育不良や原因不明で死んでしまったり、夜にイタチに襲われてしまったり、最終的に残ったのはわずか3羽でした。

2年目は1年目の反省を活かして飼育した結果、現在18羽のヒナが14羽となっています。アヒルの飼育については1年目に比べると順調にいきましたが、稲の苗がアヒルに倒され、大量発生した水草に絡まり、起き上がらずに3割程度が欠株になってしまいました。

私は10年間、有機農家として、米や野菜を育ててきましたので、このようなことはある意味当たり前です。自然環境と隔離し、機械によって管理している工業製品ですら、一定の割合で不良品が発生するのですから。自然環境下で、アヒルという自由に行動する生き物を管理して、稲という生き物を育てることが、計画通りいく方がおかしいのです。こういったことを実感することは人間社会全体にとっても非常に重要です。原発が60年間に2度(チェルノブイリとフクシマ)も大事故を起こすこともある意味必然だとわかるからです。

また、別な視点でアヒル農法を見てみましょう。
アヒルという生き物を育て、それを肉にして食べるという行為は、私たちが日々当たり前に、牛や豚や鶏を食卓で頂いているということの意味を深く考えるきっかけになります。アヒルがお尻をふりふり歩く姿はとても愛らしく見えてしまいます。

牛や豚や鶏も実際に見るととても可愛い生き物です。日本人はクジラを食べますが、欧米から非難されます。ペットとして飼われることが多い犬や猫も他国では食べる地域もありますが、日本では食べません。(今では信じられないことですが、日本でも幕末まで猫を食べることもあったそうです。)では、毎日食卓にのぼっている牛や豚や鶏と、クジラや犬や猫の違いは何なのでしょうか?

犬や猫は食べたことがないので、わかりませんが、牛や豚や鶏は食べると非常に美味しく感じます。焼き肉屋が繁盛するのは、人間の美味しいものを食べたいという欲望(脂に中毒性があるらしい)のおかげです。私達は生き物を殺しているという事実を生活から切り離すことで、深く考えずに欲望のまま毎日食べているのです。

最近は、魚にも痛覚があるという見方が研究者の間で広がっているそうです。魚も命ある生き物です。もっといえば野菜も植物としての命があります。

自然界に生きるすべての動物は自分が生きるために必要な分しか殺して食べません。ところが人間は生きるために十分な栄養を得た上で、美味しいものを食べて楽しむという欲望によって肉を食べています。

人間は欲深い生き物です。だからこそ、せめて命を頂くことに感謝し、美味しく、大切に頂くということに尽きるのだと思います。昔から祖父や祖母が言っていたことがとても大事なことだったのです。祖父や祖母の生きていた時代は庭には鶏がいて、牛や馬を生活のために飼い、お祝いなどの特別な時にそれらを屠殺して、家族で感謝して頂くということが身近で行われていました。そのため、そのような想いに至ることが当たり前だったのです。現代の私達の社会は、家畜という生き物を食卓から遠く離すことで、命を頂くという有り難いことに感謝する気持ちをすっかり忘れてしまっています。それは肉に限らず、米や野菜、魚など食べ物すべてについても言えることです。
アヒル農法を子供たちと実践することで、命を頂くことの有難さも含めて、持続的な生き方を学ぶきっかけになればと思っています。食べる前に言う「いただきます」という言葉の大切さと共に命を頂く有難さを子ども達に伝えていきたいです。

(追記)一年目、私の娘(当時小学2年生)が生き残った3羽のアヒルに「リーダー」「班長」「副班長」という名前をつけてしまいました。私もその名前が妙に面白くて、そう呼んでしまっていたのですが、そのせいか、アヒルたちを食肉加工場に持っていく時に運転する車の中で涙が出てきてしまいました。
ところが、肉になった状態で受け取った時には、もうそれは食べ物としての肉にしか見えず、悲しさは湧いてきませんでした。
2年目は14羽もいるので、個々のアヒルを識別することが難しく、名前もつけていないため、涙が出るほどの感情は沸かないかも知れません。

(追記2)どんな環境やどんな餌で育てられたかもわからない生き物を食べ、自分の身体の一部にすることは、よくよく考えると怖いことかも知れません。自分たちで栽培した野菜や穀物などを中心とした餌を与え、のびのびとした自然環境で育てたアヒルを頂き、自分の身体の一部にすることは、考えていた以上に意味のあることのように思えてきます。

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